MS治療薬の服用と、COVID-19の重症化リスク
多発性硬化症(MS)のお薬には、免疫の働きを抑えたり調節したりする作用があるので[1]、MS治療中にCOVID-19に感染すると重症化するのではないかと心配される患者さんもいらっしゃるかと思います。
その一方で、MSの治療を中断したり延期したりすることで、MSが悪化するリスクもあるため、慎重な判断が求められます[1]。
基本的にはMS治療をそのまま継続することが求められていますが、COVID-19に感染した場合は、治療方針に関して直ちに主治医に相談してください[1]。
より注意が必要なMS患者さん
MSというだけでCOVID-19に感染しやすい、または、重症化や命に関わるリスクが上昇するということはありませんが、下記に該当する方は、感染した場合に重症化のリスクが上昇することが指摘されていますのでご注意ください(2022年3月21日時点)[1]。
①進行型MSの方
②60歳以上の方
③男性
④黒人の方(加えておそらく南アジアの方)
⑤身体障害度が高い方(たとえば総合障害度(EDSS)6.0以上の方:杖、車椅子などが必要な状態)
⑥肥満、糖尿病、心疾患をお持ちの方
⑦一部の多発性硬化症治療薬を使用中の方
⑧COVID-19に感染する前2ヵ月以内にステロイド治療を受けた方
基本的な対策
まずはCOVID-19に感染しないよう、屋内でも屋外でも社会的距離(最低1.5m)を確保する、公共の場ではマスクを着用する、混雑した場所(特に屋内)は避ける、手指を清潔に保つ、インフルエンザの予防接種を受けるなど、一般的な感染対策はしっかり行いましょう[1]。
なお、公共交通機関での移動や待合室での感染リスクを懸念して通院をためらっている場合は、病状が安定していればオンライン診療や電話相談など、対面診察以外の方法を選択されるのも良いかと思いますので主治医にご相談ください。
COVID-19 に関しては不明な点も多く、世界各国で様々なデータが現在進行形で集積されています。今後の研究や新たな報告、状況の変化などによって、これまでの方針が見直される可能性もありますので、厚生労働省や日本神経学会、日本神経免疫学会のホームページなどで最新情報をこまめにチェックしていただけたらと思います。
【回答】東北医科薬科大学 医学部 脳神経内科学 教授 中島 一郎 先生