病気と向き合いながら患者力を養っていきましょう。
年を取れば誰にでも衰えが現れます。それを悪いことだととらえずに、いまできることに目を向ける。そうすることで、気持ちも行動も前向きに変わってくるものです。
慶應義塾大学 看護医療学部 教授
加藤 眞三 先生
治療とともに大切なことの1つ。それが、患者力を養うことです。
日本は生活環境や衛生状態などが良くなり、平均寿命が世界で最も高い国になりましたが、その一方で近年は慢性疾患に悩む方が多くなりました。 加齢黄斑変性も、加齢にともなう一種の慢性疾患ととらえると、治療とともに病気への向き合い方も大切になってきます。
最近では「患者力」という言葉が提唱されています。患者さんの患者力を養うという視点から加齢黄斑変性との付き合い方についてお答えいたします。
年を取ればさまざまな衰えが現れる。しかし、悪いことばかりではないはずです。
人は年を取れば、いろいろな病気を抱えていくようになります。1人1つの病気とは限りません。 加齢にともなって眼の機能が衰えるだけでなく、物忘れが多くなるとか、耳が聞こえにくくなるなど、さまざまな衰えを感じながら生きていきます。
最近、アンチエイジングという言葉が流行って、年を取ることは悪いだけのようなイメージで語られることが多くなってきました。 でも、加齢というものを悪い方向ばかりに考える必要はないと私は思います。
加齢によって病気になったとしても、治療ができることは、すばらしいこと。
体の機能は衰えても、物事の本質が見えてくるということもある。年を取るということは、人間のひとつの過程です。 加齢による体の衰えは、ある意味で受け入れなければならないことではありますが、そんな中でも医療技術の進歩によって、治療ができる病気もいくつか出てきました。
加齢黄斑変性もそのひとつ。コントロールできる治療法がある病気だということを情報としてきちんと知ることが大切です。
何も治療法がない病気も多い中、完治はしなくても進行を抑える治療法があることは、とてもすばらしいことです。 ただ、患者さん本人にしてみれば、症状が悪くなるのを抑えているという効果は実感しにくく、その意味をなかなか理解できない面もあるでしょう。
「いま何ができるか?」その意識で行動さえも変わってくるのです。
病気によって日常生活の中で制限を受けてしまうと、どうしても、あれもできない、これもできないと「できない」ことに気持ちが集中してしまいがちです。 とくに目で見ることに頼ってきた生活の中で、見えない部分がでてきてしまえば、落ち込むのはごく普通の反応です。
そこから抜け出すことは、とても難しいことですが、やはりどこかで気持ちを切り替えていくことが必要です。 行動の制限はされていても、「いま何をできるか」に目を向けていくことができれば、気持ちとともに行動が変わることも期待できます。
自分でできることは自分でやる。それが自律心や生きがいをも支えます。
優しい家族ほど「安静にしていなさい」と言って、患者さんの仕事を取り上げてしまいがちです。 周囲があまり気遣うと、その人は社会の中での役割を失ってしまいます。よかれと思ってしたことが、 逆に患者さんの自律心や生きがいを奪ってしまうこともあるのです。
慢性病では安静が必要な病気は一部で、むしろ運動で体を動かした方がよい病気もたくさんあります。 自分でできることはできる限り自分でやる。その上で、できないことを周囲に支えてもらうという姿勢が大切です。
「いまの病状では、ここまでなら活動をして大丈夫」という範囲を主治医に確認して、 周囲も患者さんの役割を奪ってしまわないよう気をつけていただきたいと思います。
慶應義塾大学 看護医療学部 教授
加藤 眞三 先生
慶應義塾大学医学部卒業、同大学大学院修了。米国ニューヨーク市立大学マウントサイナイ医学部研究員。
その後、都立広尾病院内科医長、慶應義塾大学医学部専任講師を経て、現在、慶應義塾大学看護医療学部で慢性期と終末期病態学の担当教授。