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多発性硬化症の情報サイト

『WEB市民公開講座』記録集のご案内
情報を集めて活かして伝えよう ~自分らしさを表現するために~

2022年11月12日 (土) 開催

パネルディスカッション 情報の活かし方・伝え方

磯部 紀子 先生 ・ 藤井 ちひろ 先生 ・ 市原 章子 氏 ・ 鈴木 美江子 氏

パネルディスカッションでは、磯部先生、藤井先生、市原氏、MS患者さんでテレビ番組・講演会・イベントのプロデューサーとしてご活躍されている鈴木美江子氏にご登壇いただき、視聴者の方々にリアルタイムでアンケートを取りながら、MSとの付き合い方、自分らしい過ごし方についてディスカッションを行いました。

病気に関する情報収集について

サマリー:確かな情報源から幅広く情報を入手し、客観的に吟味しましょう

インターネット・SNSなど、病気に関する情報源でよく利用するのは何ですか。
(複数回答)

Web市民公開講座に参加された方169名を対象にリアルタイムアンケートを実施し、結果を収集。

患者会ホームページ 27%、企業ホームページ 23%、Twitter 14%、個人ブログ 10%、インスタグラム 6%、その他 19%

藤井先生コメント:
皆さん、いろいろなところから情報を収集していらっしゃることが分かりました。情報の選択が必要な場合は、ぜひ専門家として医療従事者の意見も伺っていただけると、お手伝いができると思います。

MC
鈴木さんは2018年2月にMSを発症されたとのことですが、診断までの経緯についてお話しいただけますか。

鈴木氏
発症以前は風邪もひかずにとても元気で、仕事でもあちこち飛び回っていたのですが、ニューヨーク出張から帰ってきて以降、頭痛が続く、お腹が苦しくて歩けないということがありました。その後大阪に出張した際、床暖房かと思うくらいホテルの床が熱く、一方でお風呂のお湯は水のように冷たく感じ、これはおかしいと思って、帰ってからすぐにいろいろな先生に聞きました。インフルエンザでもなく、肺炎でもないということで、脳神経内科を勧められ、そこでMRI検査の結果MSの疑いがあると分かり、即入院となりました。

MC
診断を受けてからは、どのように情報を収集されたのでしょうか。

鈴木氏
「多発性硬化症」という病名すら知らなかったので、いろいろとインターネットで情報を収集していました。

MC
インターネットは便利なツールですが、その情報は玉石混交との話も聞きます。磯部先生、正しい医療情報の見極め方についてアドバイスをいただけますか。

磯部先生
たくさんの情報が溢れている状況ですから、まず、どこ(誰)が発信している情報なのかを確認しましょう。また、その情報がどの患者さんにも当てはまるとは限らないので、一歩引いて客観的に吟味するという姿勢も大事ではないかと思います。

MC
患者さんが相談に来られたとき、市原さんはどのように情報を提供していらっしゃいますか。

市原氏
患者さんの個別性を考えて情報をご提供します。患者さんが「これが知りたい」とおっしゃるとき、その向こうには、なぜその情報を必要とされているのかという背景があります。面接をしていると、患者さんが知りたいとおっしゃったことと、こちらが最終的にお伝えしてご本人がスッキリされる情報というのは意外と異なるケースもあります。そのため、患者さんの個々の生活と人生を考えて、質問の本質を見極められるように心がけています。

多発性硬化症の症状について

サマリー:いつもと違う症状が続いている場合には、主治医に伝えましょう

MSになってから経験された症状にどのようなものがありますか。
(複数回答)

Web市民公開講座に参加された方169名を対象にリアルタイムアンケートを実施し、結果を収集。

歩きにくさ 17%、疲労感・うつ 16%、しびれや痛み 16%、注意力の低下、忘れっぽさ 14%、感覚・知覚障害(触覚の異常など) 13%、排尿・排泄障害・性機能低下 12%、目の症状 11%

藤井先生コメント:
アンケート結果からも分かるように、MSには多様な症状があります。特に病初期にはMSの再発による症状なのか、他の病気による症状なのか、判断するのは難しいと思いますので、1~2日以上いつもと違う症状が続いている場合は、ぜひ1回主治医や看護師に相談してください。

MC
鈴木さんは、最初に頭痛や腹部の膨満感、そして温度感覚の異常があったとのことですが、その後の症状についてもお話しいただけますか。

鈴木氏
入院してから、階段の上り下りがうまくできないということに気づきました。2018年の2月ごろに感じた腹部の膨満感は、実は下肢のしびれだったのだと、リハビリテーションのときに教えてもらいました。また、今年になってから視野の異常が分かりました。検査の結果、MSの再発ではないけれども、炎症を起こしているという診断でした。

MC
藤井先生、どのような症状がある場合に受診をすべきかについて教えていただけますか。

藤井先生
MSの症状は多種多様で、個人差があります。例えば、視神経炎や感覚障害、運動障害のほか、膀胱直腸障害といって排便・排尿のトラブルが出てくることもあります。特に最初のうちは、患者さんご自身ではその症状が再発なのかどうか、わからないことの方が多いと思いますので、いつもと違う症状が出てきたら、そしてそれが1日以上続くあるいは経時的に悪化する場合には、先生にご相談ください。

より専門性の高い医師からの情報提供について

サマリー:現在の治療に満足できていない部分がある場合は主治医に診療情報提供書を記載いただき、 より専門性の高い医療機関を受診することも可能です

より専門性の高い医療機関を受診したいと思いますか。
(1つだけ選んでください)

Web市民公開講座に参加された方169名を対象にリアルタイムアンケートを実施し、結果を収集。

受診したいと思う、受診した経験がある 70%、現状に満足で、受診したいと思わない 24%、現状に不満だが、受診する予定はない 6%

藤井先生コメント:
「現状に満足で、受診したいと思わない」という方が2割というのは喜ばしい結果です。ただ、もし現在の治療に満足できていない部分があるのであれば、ぜひ、ほかの先生の意見を聞く機会を持っていただくとよいと思います。それによって、ご自身のQOL(生活の質)を上げるチャンスが広がる可能性もあります。話を聞いた結果、また元の先生のところに戻って治療を受けている患者さんも大勢いらっしゃいます。ぜひいろいろとチャレンジをしていただけたらよいと思います。

MC
磯部先生、専門医のお立場として別の医療機関からの紹介を受けるというのはよくあることなのでしょうか。

磯部先生
医師によって専門分野が異なりますので、医師同士で紹介し合うことはよくあります。通常の診療という形で受診される場合と、セカンドオピニオンを求めていらっしゃる場合があります。他の先生の話を聞きたい、他の医療機関にかかりたい場合は、主治医の先生に紹介状(診療情報提供書)を書いていただく、もしくはそれがどうしても難しいのであればソーシャルワーカーにご相談いただくのがよいでしょう。

MC
市原さんは、患者さんから通院先の変更などについてご相談を受けることはありますか。

市原氏
よくあります。より専門的な治療を求めてという場合もありますし、主治医との信頼関係のボタンの掛け違いみたいなところから、どうしても溝が埋めづらくなって病院の変更を考えたいというご相談もあります。主治医に申し訳ないと思われる患者さんもいらっしゃいますが、自分の治療を自分で選ぶのが患者さんの権利ですので、何も遠慮することはありません。ご自身が納得できる選択肢を選んでいただけるように、私どもが一緒にお手伝いしたいと思っています。

鈴木氏
私も、専門医の先生にセカンドオピニオンを求め、今はその先生に診ていただいています。最初は入院した時から診ていただいた先生方を裏切ってしまうような気がして、申し訳ないと思いました。でも、自分にとって今、一番大切なものは何かを考えたのです。私にとって、それは、家族であり、仕事でした。そして、何より自分自身を大切にしないと、家族も仕事も大切にできないと強く感じました。そのためには、先生方に気を遣って受けたい治療を受けられなくなるのは違う、どう思われようと、私は自分の体を守る、家族を守る、仕事を守ると決意して、先生に話を切り出しました。

磯部先生
一番優先されるべきなのは、患者さんご本人です。患者さんにとっては、身近で寄り添ってくれる一般医の先生方も、専門医の先生方もどちらも大切だと思います。現在、難病の患者さんに対する一般医と専門医の連携を強化しようという方向に制度も進んでいますし、市原さんのようにコーディネートをプロとしてされている方もいらっしゃいます。ぜひ、遠慮なくご相談していただきたいと思います。

現在困っていること/前向きに付き合っていくために

サマリー:困りごとがあった場合には、一番話しやすい方に相談してみましょう

MSについて困っていることはありますか。
(複数回答)

Web市民公開講座に参加された方169名を対象にリアルタイムアンケートを実施し、結果を収集。

多発性硬化症の症状・治療 36%、生活面(学業・就労・金銭面)の悩み 27%、医療従事者や周囲とのコミュニケーションの取り方・理解を得にくいこと 21%、適切な情報源や相談先がわからない 10%、困っていることはない 2%、その他 4%

磯部先生コメント:
3人に1人の方がMSの症状や治療についてお悩みだということ、また、コミュニケーションで困っている方も多くいらっしゃるということが分かりました。こうした困りごとを教えていただけるように、医療従事者側も環境を整えていきたいと考えています。患者さんには、遠慮せずに発信していただければ嬉しいです。

MC
鈴木さんは現在、MSに関連して困っていることとして、どのようなことがありますか。

鈴木氏
テレビの仕事ですので、長時間立ちっぱなしのロケがつらいです。体力の回復にも時間がかかるようになったと感じています。それでも仕事を続けていられるのは、周囲の理解のおかげです。

MC
患者さんやご家族が困った際に、どこに相談すればよいのか、市原さんよりアドバイスをいただけますか。

市原氏
まずは、話しやすい方に呟いていただければと思います。例えば、仕事のことだからといってハローワークにいきなり行くのは勇気がいると思うので、主治医や看護師、ソーシャルワーカーなど、最も話しやすい方に話していただければ、その先は、私たちがチームでサポートしていきます。あるいは、今日ご紹介したような難病相談支援センターや保健所の方に伝えていただいても構いません。ともかく、身近な方に遠慮なくお話しください。

MC
鈴木さんは海外ロケなどの仕事や趣味を充実させながらMSと前向きに付き合っていらっしゃいます。自分らしい生活を実現するための秘訣のようなものがあれば、お聞かせください。

鈴木氏
この病名が判明したとき、最初に思ったのは、「自分の今までいたステージが変わった」ということでした。今までの生活を全て捨てて、新しいフィールドで自分が1から積み木を積んでいくことになるのだと感じました。そこで、冷静に自分自身を俯瞰して、家族や仕事、そして自分を守るために、自分のフィールドをどう整えていくかをたくさんシミュレーションしました。例えば仕事では、起こりうるあらゆる事態を想定して対策を立てます。悪いことは起きて当たり前で、起こらなければラッキーだと考えて。そういうふうにして1つずつ積み木を重ねて、その中で楽しめること、やりたいことを増やしていこうと、力まずに頑張っております。

MC
最後に先生方から一言ずつメッセージをお願いいたします。

藤井先生
患者さんから「自分の人生をこうしたい」という気持ちを発信していただくのは、きっと勇気が必要だとは思うのですが、そこからがスタートになります。私たち医療従事者は皆さんを支えられるよう日々準備をして待っていますので、ぜひ最初の一歩を踏み出していただけたらと思います。

市原氏
病気になって新しいステージに立たざるをえなくなったときに、頭が真っ白になってしまう方も多いと思います。そのような状況でも、ご自身が今まで歩み、積み上げてきた強みや、仕事や家族といった大切なものをもう一度見つけ直して前進していけるよう、私たちは応援したいと思っています。ぜひ周りの身近な方々にお気持ちを呟いていただけたらと思います。

鈴木氏
今日は、患者家族の方も聞いていらっしゃるかと思います。患者はどうしてもわがままになってしまいます。辛い矛先をどこにも向けられないから。なので、申し訳ございませんが、そんなわがままな患者として言わせていただければ、構われると嫌だし、構われないのも嫌なので、そっと側にいてくださるとありがたいです。ごめんなさい、涙が出てしまって……。今日はありがとうございました。

磯部先生
人生を歩んでいく中で病気がいきなりやってくるのは衝撃的なことだと思います。今回、「情報を集めて活かして伝えよう」というテーマにおいて、当初私がウェイトを置いていたのは、周りの情報をどう集めて活かすかということでした。しかし、鈴木さんのお話を伺って、実際に嵐のような毎日に立たされたときには、外からの情報だけではなくて、患者さんご自身の周りの情報もとても重要であるということが分かりました。そして、患者さんたちは大変な日常の中で、なんとか時間を作って通院されていることを強く実感し、脳神経内科医として、これからもできる限りお手伝いしていきたいという気持ちを強くしました。困りごとや悩みごと、さまざまな情報は一人で全部抱えずに、ぜひ伝えていただけたらと思います。その一言が、医療と福祉の次のアクションにつながります。

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