監修:信州大学医学部眼科学教室 教授 村田敏規 先生
「たまる水」とは―水と見え方の関係
碁盤の目に大きな水滴がのっているイメージ図です。水滴を通して碁盤の目を見ると、線がゆがみ、物が見にくくなります。
糖尿病は全身の血管がもろくなり、水が漏れたり、詰まったりします。眼にある網膜の血管も詰まったり、水が漏れたりして、「たまる水」を作ってしまいます。
「たまる水」は黄斑をゆがめてしまうので、視力が低下する
網膜は我々が見た画像を、脳に送る役割をする神経です。黄斑は視力に最も大切な部位です。鏡がゆがむと物がゆがんで見えるように、黄斑に水がたまると物がゆがみ、かすむので、視力が低下します。
糖尿病は全身の血管がもろくなる病気です。脳の血管がもろくなると脳梗塞、心臓の血管がもろくなると心筋梗塞の原因になりますが、網膜の血管がもろくなると、網膜に「たまる水」が作られてしまいます。これが、眼の中に「たまる水」ができる理由です。
また、糖尿病の患者さんの網膜では、血管内皮増殖因子(VEGF)という物質が産生されます。
VEGFが網膜血管から水の漏れを増やす
VEGFが毛細血管瘤という放水口のような構造物を作り、水の漏れがさらに増える
黄斑に「たまる水」が作られる
鏡がゆがむと物がゆがんで見えるように、水がたまって黄斑がゆがむと、物がゆがみ、かすんで見えます。
「たまる水」を考慮に入れた治療
糖尿病黄斑浮腫の治療は、「たまる水」を作ってしまう網膜血管からの漏出を止めることが鍵となり、主に以下の3つの方法があります。
- 1. 原因となるVEGFを抑制する抗VEGF薬の眼球内への注射(抗VEGF薬療法)
- 2. 毛細血管瘤をレーザーで凝固して漏出を止める
- 3. 硝子体を取り除いて、網膜含む眼球内に貯留しているVEGFが、素早く眼外に排出されるようにする
1. 抗VEGF薬療法
抗VEGF薬を年間7-10本眼の中の硝子体に注射することで、黄斑浮腫が改善することが、臨床試験で示されています[1][2]。一方、患者さんの経済的負担が大きく、頻回の通院が必要なため、他の治療方法との併用が必要です。
2. レーザー光凝固術による治療
毛細血管瘤が中心窩から離れた部位にある場合、レーザーで直接放水口のような働きをしている毛細血管瘤を凝固すると、中心窩に流れこんでくる「たまる水」を減らして、視力を回復できる場合があります。VEGFが過剰でも、漏出を止めれば「たまる水」を減らせます。
3. 硝子体手術による治療
右下のOCT検査(後述)の画像は硝子体が網膜を引っ張り上げて(牽引して)しまい、この結果として「たまる水」ができています。つまり、硝子体が黄斑浮腫の原因となっていることを明瞭に示します。
このような症例では牽引している硝子体を手術で取り除くと、浮腫(たまる水)が吸収されて視力が改善する場合があります。また、このように牽引が明瞭な場合は、抗VEGF薬では改善しない場合が多くなります。
「たまる水」や血管から漏れ出す水を調べる検査
「たまる水」などを確認するために、OCT検査や蛍光眼底造影検査と呼ばれる画像検査が行われます。
OCT
造影剤を使うことなく、網膜の断面の状態を詳しく調べることができます。
蛍光眼底造影
蛍光色素を含んだ造影剤を腕の静脈から注射し、眼底カメラで眼底の血管の異常や漏出を調べます。
主な糖尿病黄斑浮腫
糖尿病黄斑浮腫のうち、よく見られる浮腫の形態を解説します。
1. 嚢胞様黄斑浮腫
中心窩に漏出する毛細血管瘤があると、これが網膜内に水泡(「たまる水」)を作ります。嚢胞様黄斑浮腫と呼ばれますが、一般的に、毛細血管瘤がない場合と比較して、視力を上げるために必要な注射本数は多くなります[3]。ここまで進行する前に、治療を始めるべきです。
2. 漿液性網膜剥離による黄斑浮腫
嚢胞様黄斑浮腫をともなわない、正常に近い網膜が、流れこんできた「たまる水」で持ち上げられています。レーザーでこの毛細血管瘤を凝固すると、流れこんでくる水が止まり漿液性網膜剥離は消失します。
3. 硝子体牽引による黄斑浮腫
硝子体牽引をともなう黄斑浮腫は、硝子体手術で牽引している硝子体を除去することが最も効果的な治療法です。
以下は、「たまる水」がある状態、ない状態のOCT検査の画像です。
診察の時にOCT検査の画像を見せてもらうと、「たまる水」により網膜のかたちが変化している眼の状態がわかります。納得感を持って前向きに治療を始めたり、続けたりするために、「たまる水」について眼科医と相談してみましょう。
※治療の効果には個人差があります
「たまる水」を確認するタイミングと聞き方
眼科医に対して、聞きたいことが聞けなかった経験がありませんか?「たまる水」について聞こうと思っても、そのタイミングと聞き方は難しいものです。
眼科医が質問に答えやすいタイミングは、検査結果を患者さんやご家族に一通り説明した後です。検査の結果説明を受けた後、もし「たまる水」について話がなかった / 聞き逃したら、そこで一つ二つ質問できるとスムーズです。
こんな風に聞いてみましょう
上の聞き方の例を参考に、ご自身でアレンジして先生に尋ねてみましょう。
聞くタイミングを逃した場合、診察の最後などに聞いてみても大丈夫です。
「たまる水」「網膜のかたちの変化」メモ
いざ診察室で「相談内容を忘れた」「なんと相談すれば良いかわからない」とならないように、事前に相談内容を確認できるメモをご用意いたしました。下のボタンからダウンロードしてPCやスマホに画像保存できます。診察前の待合室などで確認しましょう。また、「たまる水」や「網膜のかたちの変化」が検査できる機器「OCT」はすべての眼科にはご用意がありません。「病院検索」のボタンから眼科専門医を受診するようにしましょう。
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Ishibashi T, et al. Ophthalmology. 122(7):1402-1415, 2015
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Brown DM, et al. Ophthalmology. 122(10):2044-2052, 2015
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Hirano T, et al. Ophthalmic Res. 61(1):10-18, 2019