動脈硬化によって心臓の血管が狭くなったり、詰まったりして、心臓の筋肉に十分に血液が届かなくなる病態を包括して「急性冠症候群(ACS)」といいます。急性冠症候群(ACS)には、「不安定狭心症」、「急性心筋梗塞」などが含まれます[1]。
コレステロールの冠動脈への影響
心臓は、全身に血液を送り出すポンプのような役割を果たしています。こうした心臓のはたらきは、「冠動脈」と呼ばれる心臓の血管によって、心臓の筋肉(心筋)に栄養が運ばれることで成り立っています。
高血圧や肥満といった生活習慣病や、高コレステロール血症(脂質異常症の一つ)などによって、血液中の「LDLコレステロール(脂質)」が多い状態が続くと、冠動脈の血管の壁にコレステロールが溜まり、やがて「プラーク」と呼ばれる塊ができます。プラークが大きくなっていくと、血管が硬くなり、血管の中が狭くなっていきます。これを動脈硬化といいます。やがて、大きくなったプラークが破裂し、そこに血栓が形成されると、血管はさらに狭くなったり、または完全に詰まったりしてしまうことがあります。
「不安定狭心症」は、血栓ができて、血管が急激に狭くなり、冠動脈から心筋へ運ばれる血液が少なくなると発症します。血栓によって血管が完全に閉塞してしまい、心筋へ血液が届かなくなると、「急性心筋梗塞」という病気を発症します。いずれも、生命にかかわる疾患で、病院での迅速な処置が必要です。
急性冠症候群(ACS)の原因と症状
ACSと深くかかわる「動脈硬化」の原因は、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症(脂質異常症の一つ)、喫煙、肥満、運動不足、高齢、家族歴などです。高血圧や糖尿病、高コレステロール血症は、適切な治療を行ったり、生活習慣を改善したりすることでコントロールが可能です。動脈硬化は男性に多くみられますが、女性でも閉経期を過ぎると、LDLコレステロールの代謝にかかわるエストロゲンの分泌量が低下するため、動脈硬化を起こしやすくなるといわれています[1]。
ACSでは、急ぎ足や重いものを持つなどの体を動かしているときだけでなく、食事中や安静にしているときにも、胸や胸骨の後部に「胸痛」(締め付けられるような重苦しさなど)を感じます。
不安定狭心症は、胸痛が数分~20分程度持続します。多くの場合、安静や適切な薬の投与によって症状は改善しますが、症状が改善しても、すみやかに病院を受診しましょう[1][2]。
急性心筋梗塞では、一般的には強い胸痛が20分以上持続し、上腕や左肩などの心臓から離れたところにも広がって痛みを感じたり(放散痛)、冷や汗や吐き気、呼吸のしづらさを感じることがあります[1][2]。
急性冠症候群(ACS)の診断方法
ACSが疑われる場合には、問診と身体所見の確認後、心電図検査、血液検査、画像検査を行って、胸痛を伴うほかの病気との見きわめ(鑑別)を行います。
特に、「心電図検査」はACSの診断、重症度の評価、治療方針を決定するうえで非常に重要です。心電図検査で、心筋に血液が届いていない状態(虚血)や虚血の範囲、経時的な変化をみることによって、病状のリスクを確認し、治療方針を検討します。
心筋は虚血状態が続くと壊死します。血液検査では、心筋の壊死が発生しているか、心筋がどれくらい傷ついているかを知ることができます。ただし、急性心筋梗塞では、血液検査の結果を待たずに、血流を戻す処置を行うことがあります。
画像検査には、胸部レントゲン検査や心エコー(超音波)検査、造影CT検査などが含まれ、急性心筋梗塞や、他の心臓の病気(急性大動脈解離や急性肺血栓塞栓症など)、その他の病気との鑑別や重症度の評価を行います。
急性冠症候群(ACS):発症直後の治療
ACSを発症したら、すみやかに治療を開始する必要があります。
急性心筋梗塞では、血流を回復させるために、冠動脈の狭くなっているところを広げる手術を行います。
不安定狭心症では、リスクの確認を行ったうえで、冠動脈を拡張させたり、血圧を下げたりする抗狭心症薬によって治療します。さらに、必要に応じて血流を回復させる手術を行います。
急性冠症候群(ACS):入院中の治療<薬物療法と心臓リハビリテーション>
ACSが再び起こらないようにすることが大切です。薬物療法としては、血管内に血栓をできにくくする抗血小板薬や、不整脈を抑えたり血圧を下げるための抗狭心症薬、LDLコレステロールを下げるための脂質低下薬などを服用します。また、動脈硬化を防ぐために、運動療法などの心臓リハビリテーションや禁煙を行います。
急性冠症候群(ACS):退院後の治療<再発予防と生活習慣の改善>
動脈硬化を予防してACS発症を防ぐことを心がけます。薬物療法は、必要に応じて継続します。例えば、動脈硬化を促進するLDLコレステロールの値を管理するために、LDLコレステロールを下げるための脂質低下薬を服用します。これらの薬物療法に加え、生活習慣を改善したり、運動の習慣をつけたりすることも大切です。
よくあるご質問(FAQ形式)
Q:AMIとACSの違いはなんですか?
AMIは、「急性心筋梗塞」の英語名称“Acute Myocardial Infarction”の略語で、血栓によって血管が完全に閉塞してしまうことで、血液が届かなくなった心筋が壊死してしまう疾患のことです。一方、「急性心筋梗塞(AMI)」や「不安定狭心症」のように、動脈硬化によって血栓ができ、心筋に十分に血液が届かなくなる病態を包括して「急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome;ACS)」といいます。
Q:急性冠症候群(ACS)は命に関わる可能性もありますか?
日本では毎年約10万人が病院の外で突然死するとされており、その最大の原因が急性冠症候群(ACS)だといわれています[1]。とくに急性心筋梗塞では、発症直後に突然死のリスクがあるため、発症後すぐに救急車を要請することが重要です。
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日本循環器学会ほか(編). 2017-2018年度活動 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版).
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医療情報科学研究所(編). 病気がみえる vol. 2 循環器 第5版, メディックメディア, 2023.