血管拡張などを目的とした薬物療法や、冠動脈の血流を回復させる手術を行います。心臓リハビリテーションや生活習慣の改善によってACSの再発を予防します。
急性冠症候群(ACS)発症直後の治療
〈急性心筋梗塞の場合〉
急性心筋梗塞が疑われる場合、救急搬送後すみやかに問診や心電図検査などを行います。急性心筋梗塞のなかでも、心電図検査で心筋の壁の広い範囲に血液が届いていない状態がみられる「ST上昇型心筋梗塞(STEMI)」と診断される場合には、迅速に冠動脈の閉塞を取り除き、血流を回復させることが必要です。発症から12時間以内のSTEMIの患者さんには、病院到着から血流の再開までを90分以内に行うことを目標とします[1]。
血流を回復させるために、多くの場合で経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行います。PCIは、柔らかい管であるカテーテルをつかって、血管の狭くなっている部分(狭窄部位)を広げ、そこに網目状の金属の筒(ステント)を留置する治療法です[2]。現在では、血管が再び狭くなる再狭窄を防ぐ薬がステント表面から長期にわたり溶け出す、薬剤溶出性ステント(DES)が多く使用されています。
なお、発症から12~24時間以内の患者さんにおいてもPCIが考慮されますが、発症後24時間以上経過していて血流が安定、症状が消えている場合にはPCIは推奨されていません[1]。
STEMIの患者さんでPCIが行えない場合には、血栓を溶かす薬(t-PA製剤)を静脈注射して血管内の血栓を溶かして血流を回復させる「血栓溶解療法」や、冠動脈の狭窄部位より末梢側の血管(心臓から離れていく血管)と大動脈とをつないで末梢の血流を確保する「冠動脈バイパス術(CABG)」が考慮されます[2]。
〈不安定狭心症※1の場合〉
※1:ACSで、心筋の内側(心内膜)のみに虚血(心内膜下虚血)がみられる心筋梗塞を「非ST上昇型心筋梗塞」といいます。「非ST上昇型心筋梗塞」は“心筋壊死がある”、「不安定狭心症」では“心筋壊死がない”という違いがありますが、初期の診断と治療において区別することは困難であるため、このサイトでは両者を合わせて「不安定狭心症」として解説します。
不安定狭心症が疑われる場合、心電図や心筋バイオマーカーなどによって、病気の経過が命に与える影響などについてのリスク評価をくりかえし行い、治療方針を決定します。
低リスク※2と判断される場合には、侵襲性の高い治療ではなく、保存的治療がまず考慮されます。患者さんの症状に応じて、血液中のコレステロールが高い場合にはコレステロールを下げる薬、血圧が高い場合には血圧を下げる薬、そのほか血管を広げたりして酸素量のバランスをとる作用のある抗狭心症薬(β遮断薬、カルシウム拮抗薬、硝酸薬)などをつかって治療します。また、必要に応じて血流を回復するための手術(PCIなど)を後日行う可能性があります[1][2]。
糖尿病や腎機能障害などを併存するなどの理由から、中等度※2のリスクと判断される場合には、72時間以内に血流を回復するための手術(PCIなど)を行います[1]。
高リスク※2の場合は、冠動脈造影検査で冠動脈の状態や狭窄部位をしっかりと確認したうえで、必要に応じて血流を回復するための手術(PCIなど)を24時間以内(状態によっては2時間以内)に実施します[1]。
手術の後は、合併症や併存症の治療に抗血小板薬、降圧薬、抗狭心症薬、脂質低下薬などの薬物療法を継続します。
※2:不安定狭心症のリスク評価指標の1つとして、GRACEリスクスコアがあります。 GRACEリスクスコアは、①年齢、②心拍数、③収縮期血圧、④初期血清クレアチニン、⑤Killip分類、⑥心停止による入院、⑦心筋バイオマーカーの上昇、⑧(心電図における)ST部分の偏位の8つの因子に重みづけをして、入院時および6ヵ月後までに予測される死亡率または心筋梗塞発症率を算出します[1]。
このスコアが140超の場合に「高リスク」、109~140の場合に「中等度リスク」、109未満の場合に「低リスク」と判断されます[1]。
心臓リハビリテーション
ACSの再発予防のために、運動療法やカウンセリングなどを包括的に行うことを「心臓リハビリテーション」といいます。
運動能力を上げることは、心臓関連の症状の軽減や、生活の質の向上につながります。また、生活習慣の見直しや社会復帰に対する不安についてカウンセリングを受けることもあります。
入院中には、徐々に身体活動範囲を広げていき、社会に復帰することを目標として、軽いウォーキングやエルゴメータ(ペダルに負荷をかけた自転車装置)[2]を使って運動します。また、生活や栄養、服薬、禁煙の指導などをさまざまな職種が連携して行います。さらに、退院後も生涯にわたって心臓リハビリテーションを継続し、運動療法やカウンセリングを行います。
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日本循環器学会ほか(編). 2017-2018年度活動 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版).
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医療情報科学研究所(編). 病気がみえる vol. 2 循環器 第5版, メディックメディア, 2023.