運動療法・食事療法などによって生活習慣を改善し、動脈硬化やACSの再発を予防します。また、抗血小板薬、降圧薬、抗狭心症薬などの薬物療法を継続します。
退院後のACS再発リスクについて
「急性冠症候群(ACS)」は、動脈硬化によって心臓の筋肉(心筋)に十分に血液が届かなくなる病態(虚血)で、「急性心筋梗塞」や「不安定狭心症」などの心臓の病気が含まれます。
高コレステロール血症(脂質異常症の一つ)や高血圧などの生活習慣病によって、血液中のLDLコレステロール(脂質)が多い状態や血管に高い圧力がかかる状態が続くと、動脈硬化をきたすおそれがあります。さらに、喫煙、過度な飲酒、過食や偏食(肉の脂身や加工食品などに偏った食事)、加齢によって、動脈硬化関連の病気を発症するリスクは上がるため、運動、禁煙、体重管理、節酒など、生活習慣を改善して動脈硬化を予防することが大切です[1]。
また、一度ACSを発症したことのある人は、ACSを再発するリスクが高くなるといわれています[1]。ACSの再発を予防するために、LDLコレステロール値やトリグリセライド(TG;中性脂肪)値を積極的に管理することや血圧、血糖値を厳しく管理することが大切とされ、一般の人よりも厳格な管理目標値が設定されています[2]。例えば、LDLコレステロール値の管理目標値は70mg/dL未満を考慮するとされています。この目標値の達成を生活習慣の改善と薬物治療によって目指します。
薬物療法でつかう治療薬は患者さんの病態や状況に合わせて選択する必要があるため、定期的に診察や検査を受けることが大切です。現在の治療でなかなか目標値に達しない場合は、治療内容について主治医に相談してみましょう。
運動療法/食事療法/その他の生活習慣の改善について
ACSの再発予防のために、運動療法やカウンセリングなどを包括的に行うことを心臓リハビリテーションといいます。退院後も外来心臓リハビリテーションに積極的に参加することが、ACSの再発予防へとつながります。また、日々の生活の中で適度な運動を取り入れ、食生活を見直して、禁煙や体重管理など生活習慣の改善をしていくことが大切です。
〈運動療法〉
運動療法は、ウォーキング、水泳、エアロビクスダンス、スロージョギングなどの中強度※以上の有酸素運動を中心に、毎日合計30分以上(週に3日以上)を目標に行います[1]。運動療法以外の時間も、できるだけ歩くことを心がけ、座ったままの生活を避けるとよいでしょう[1]。
※中強度・・・安静時の代謝の3倍程度の活動で、運動中に「楽~ややきつい」と感じる程度の運動を指します。
〈食事療法〉
たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルをバランスよくとります。飽和脂肪酸やコレステロールのとりすぎに注意しましょう。食物繊維を多くとり、減塩(1日あたり6g未満)を心がけます[1]。肉の脂身や加工肉を控え、大豆、魚、野菜、海藻、きのこ、果物をとり合わせた日本食の組み合わせが、動脈硬化関連の病気の予防によいとされています[1]。
多量の飲酒は動脈硬化関連の病気や死亡率を増加させます[1]。節酒を心がけ、休肝日をもうけてください。1日あたりのアルコールはエタノール換算で1日25g以下(目安:日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合、ウイスキー/ブランデーダブル1杯、ワイン2杯)にとどめましょう[1]。
〈その他の生活習慣の改善〉
たとえ1日1本の喫煙であっても、ACS再発のリスクとなります[1]。禁煙をして、受動喫煙も予防しましょう。
内臓脂肪の蓄積(肥満)は、脂質異常や高血圧などにつながり、やがて動脈硬化を引き起こす可能性があります。定期的に体重を測定し、BMI≧25以上※の場合には、運動療法と食事療法を行い、減量することが大切です[1]。
※BMI(ボディマスインデックス)の算出方法・・・[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗][5]
急性冠症候群(ACS)発症後の薬物治療について
ACSを発症後、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行ってステントを留置している患者さんは、血栓が形成されないようにするために抗血小板療法や抗凝固療法を行います。治療中は血液が固まりにくくなるため、出血リスクと血栓塞栓リスクのバランスをとりながら治療を行います。
このほか、心不全治療薬や、心拍数や心筋収縮力を調整したり、血管を広げたりする作用のある抗狭心症薬などを用いて治療します。また、血中のLDLコレステロールを低下させる作用をもつ脂質低下薬なども服薬します。ACSの発症後は、入院中から生涯にわたって薬物治療を続けていく必要があります。
〈主な治療薬[2][6]〉
脂質低下薬:肝臓へのLDLコレステロール取り込み量を増やしたり、LDLコレステロールを肝臓でより多く分解させたりして、LDLコレステロール値を下げます。その他にも、小腸からのコレステロールの吸収をおさえる作用のあるものや、血液中のLDLコレステロールを増加させる物質の働きを阻害するものなどがあります。
抗血小板薬:血小板の働きを抑えて、血栓の形成を予防します(抗血小板療法)。心房細動などを合併する場合は、抗凝固療法も併せて行うことがあります。
心不全治療薬:心筋梗塞後の心筋リモデリング(心肥大・心拡大)※を抑えて、心不全を予防します。
※心筋梗塞などによって負荷がかかった心臓が、心肥大や心拡大などの機能障害をともなって構造変化を起こすことを「心筋リモデリング」といいます。
抗狭心症薬:心拍数を低下させたり、心筋の収縮にかかる力を弱めたりすることで、心筋が酸素を必要とする程度を減らし、冠動脈の攣縮(刺激を受けた筋肉が興奮して縮んだり、ゆるんだりすること)を予防します。また、血管を拡張させて静脈灌流量(静脈から心臓に戻ってくる血液量のこと)を減らすことで心臓への負荷を減らしたり、太い冠動脈を拡張させて血流を増やし、虚血したところへ酸素を供給します。
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日本動脈硬化学会(著).動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.
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日本循環器学会ほか(編). 2017-2018年度活動 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版).
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日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編). 高血圧治療ガイドライン2019.
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日本糖尿病学会(編・著). 糖尿病治療ガイド 2022-2023.2022. 文光堂.
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厚生労働省. e-ヘルスネット[情報提供]. BMI.
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-002.html (2024年10月31日閲覧) -
医療情報科学研究所(編). 病気がみえる vol. 2 循環器 第5版, メディックメディア, 2023.